いつもとなんら変わらない朝
市場ではみんなから『生まれた？』
決まって答えは 『そんな気配全然無い』
事態が急変したのは午前９時０３分
ヨメからの電話で
陣痛？ おなかが痛いと
同時におしるしが来たらしい
早く帰りたい 飛んで帰りたい
しかし今日は市場での仕事 仕入れもあるし
仕事中はなるべく平静を装う
『みんなから早く帰れといわれても』
『そんないきなり生まれやしないから あわてなくても大丈夫』とあくまでも平静を装う
いいかげん自分でも焦りを隠せなくなってきた頃 退社
家まではいつも以上に安全運転を心がけるが渋滞
あせる心と裏腹に車はいっこうに進まない やむを得ず携帯で連絡を取り合う
いま警察に捕まったらとふと頭をよぎったのは
『これ これ こういう事情なんです』と俺
男気のある警官が『よしッ 俺について来い！』と
パトカーの先導で病院までなんてくだらないことを考えながら
渋滞の中 なんと発見！ タクシー待ちをしている
菊池桃子 綺麗だ
１０時１６分 店に到着
荷物を降ろし ガッチに連絡 『後は任せた！』
入院の荷物を積み 徐々に痛みの強くなってきたヨメを車に乗せ病院へ
そのまま お産室へ
陣痛の間隔は４分～５分間隔 子宮口は５センチ
５分おきにやってくる激痛に必死に耐えるヨメ
俺はといえば陣痛にあわせ腰のツボをひたすらプッシュ
１時間経過 だんだん間隔が狭くなってきた ２分～３分
ひたすら腰をプッシュ
２時間経過 間隔は２分をきっている 痛みの時間が長くなってきた
痛がるヨメを見るのがつらくなってきた
自分の無力さに涙が出そうになる
陣痛の合間を見ながら ヨメは少しずつ昼食をとる
これから迎えるであろう修羅場に向け体力を温存するため
俺も食事をするようにと言われたが とてもじゃないがノドを通りそうに無い
３時間経過 子宮口は７～８センチ
意外に早い展開に部屋の外では出産の準備にあわただしくなる
激痛は徐々にひどくなってゆく イキミたいがイキメないヨメ
きっと俺が今まで体験したことの無いような痛みなんだろう
俺はといえば 馬鹿の一つ覚えの腰プッシュと
新しく会得した 肛門プッシュ
４時間経過 午後３時
突然 ヨメが気持ち悪いと言い出し
看護士がタライのようなものを用意するが間に合わず
嘔吐 出産着やら髪の毛が昼間食べたもので汚れてしまう
それで俺の頭の中は完全に真っ白に
タライが間に合わず吐き出したものを自らの手で受け止める
看護士の献身的な行動を目の当たりにしても
俺はひたすら 腰＆肛門プッシュ
自分の無力さが情けなくなってきた ワンプッシュするたびに
目に涙がジワッと ヤベー泣くかもしれない
担当医は言う すこぶる順調だと初産にしては時間がかからなそう
これが安産ってやつなのか？
だとしたら安産なんて言葉はウソだ
こんなに痛みにのた打ち回っているヨメがいるのに 安産？ 順調？
４時間半 事態は急変
産科医や助産士が集まり 立会いのはずが急遽部屋の外に出された Why ?
激痛にイキンでしまうため
赤ん坊に極度のストレスがかかってしまったらしい
待合室で待つ俺 あわただしく行きかう看護士さんたち
俺は意識を失いそうだった
どれくらい時間が経ったのか部屋に呼ばれ
今までにない壮絶な現場に足がすくんだ
痛みはピーク 出産が始まった
今まで聞いたこともない痛みに耐える悲鳴とも絶叫とも言える叫び
やっと覚えた 腰＆肛門プッシュももう役立たず
『声をかけてやってくださいと』といわれるが 声が出ない
声を出したと同時に涙が溢れ出しそう
情けなく手を握り手をさすり 身体がのけぞらないように頭を起こしてやる
ヨメの叫びがピークを迎えたその時 その瞬間はやってきた
命の誕生
病室に響き渡る赤ん坊の泣き声
感動した でも涙は出なかった 相変わらず声は出せなかった
何が起きたのか分からなかった その場で立ちすくんで歩けなかった
ヨメの産後の処置をする間 赤ん坊の身体測定をして身体を拭き
手渡された生まれたての赤ん坊 実感がわかないがいとおしい
そして その子を産んでくれたヨメに早く会いたいそれだけを思った
感謝したい全てのものにこの世に生きとし生けるもの全てに感謝したい
俺は決めた これからの人生
俺たちを選んで生まれてきてくれたこいつのために生きよう
そしてこいつを生んでくれたヨメを愛し続けよう
それしか俺に恩返しできる術はないと それでも足りないかも知れない
でもそれしか俺には出来ない
腕の中で泣く我が子に話しかける
『早く ママに会ってやりな お前に一番会いたがってた ママに』
１０月２９日 １６時０４分
体重 ２６９５ｇ
女の子が誕生しました
皆様 本当に有難う御座いました
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